「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

経営の危機を救うものは何のか、中国恒大集団と当座の資金を得た「原思」の場合 ~ 論語の教え

 

 これからはAI人工知能をはじめとするテクノロジーで何でも解決できるようになるのではないかと思われていた。そんな時に、突然コロナ渦がやってきて、そうした流れに多少変化が生じたようだ。

 AI活用を進めるプラットフォーマーの代表格であるGAFAMまでもが、今ではこぞって気候変動問題に対応し、そのサービスも影響を受けるようになった。

 世界で取り組みが進むSDGsで産業構造が変化し始め、今後成長が見込まれる分野を、テクノロジー企業も定義しなおすことが求められるようになった。AI人工知能は、AI倫理が課題となり、公平性や透明性、説明責任などを求められるようにもなっている。

 

 

 中国では業界が異なるが、GAFAMと同じように多角経営を目指した不動産開発大手の恒大集団が流動性危機に陥っているという。膨れ上がった膨大な債務の返済が滞りはじめ、経営破綻が危惧される。

 農村部の貧困から抜け出し、一代でその複合企業を作った創業者はその努力の過程で幅広い人脈を作ったといわれるが、今では、政治的つながりは機能せず、盟友からも見放され孤立無援になってしまった。

 中国当局が多額な債務を抱えた複合企業の行き過ぎを抑え、住宅市場のリスクを緩和しようと取り組む中、恒大は最大の犠牲者となりつつあるとブルームバーグはいう。

中国恒大の創業者、危機脱する方法探しに躍起-支援得られず資産急減 - Bloomberg

恒大の救助はモラルハザードを生み出し、同社のような債務漬け企業が増える可能性を高めるだけでなく、恐らく最も重要なのは、救済が富裕層への大規模な補助金と見なされ、共同富裕を推進する習主席の取り組みを損なうことだ (出所:ブルームバーグ

モラルハザード」、規律の喪失、倫理観の欠如した状態のことをさし、企業や預金者が利益追求に走るあまり、本来踏むべき手続きを無視したり、自己責任原則を欠くなどの状態をいう。その防止には、健全な行動を促すためのルールと、それを遵守する倫理観の醸成が重要といわれる。

 

 

君子は急に周(あまね)くして富めるに継がず

 論語「雍也第六」4 に、そうある。

君子 教養人は、相手が急場で困っているときには手厚く援助し、豊かであるときにはわざわざ継ぎ足すようなことはしない、と意味する。

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 弟子の冉求が孔子に、同じく弟子の子華が斉国に使いときに、その母に留守見舞いとして粟をお贈りくださいとお願いしたという。すると孔子は「釜ほどを遣わせ」といったが、冉求は、もう少し増やしてくださいとお願いする。しかし、それを孔子が受け入れない。すると、冉求は五秉を贈ったという。それを知った孔子が、「子華は、立派な馬に乗り、軽裘を着て行った」ことをとりあげて、「君子は急に周くして富めるに継がず」といったそうだ。

 流動性危機に陥っている恒大は困っているのかもしれないが、その経営者はまだ膨大な資産を抱えている。なぜ救済が必要なのかということであろうか。

論語の教え

「原思(げんし)之が宰と為る。之に粟(ぞく)九百を与う。辞す。子曰わく、毋(なか)れ。以て爾(なんじ)の鄰里郷党(りんりきょうとう)に与えんか」と、「雍也第六」5 にある。

 

 

 孔子の弟子 原思が、知行地の頭になり、孔子は九百斗を与えた。ところが、原思はそれを受けなかった。すると孔子は「断るな。お前の近郷近在の者に分けてやればすむことだ」といったという。

 派手好みの子華には、孔子は出し惜しみ、一方、貧しい学究であった原憲には、過分の手当てをあたえたそうだ。

急を周いて富めるを継がず」を実践したといわれる。

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 GAFAMと恒大集団とは、目指すものが異なっていたのだろう。

 GAFAMは良くも悪くも、人々の悩みを解決し役に立ったが、逆に、恒大は住宅市場にリスクを作るばかりで何の役にも立たなかった。当局を始め、彼らに関係する人々の心が離れていくのも当然なことなのだろう。

 こうなってしまえば、救う手だてはないのかもしれない。もうテクノロジーやあらゆる知識を総動員しても、その救済には役立たないのだろう。ただ、経営者が道徳や倫理、規律をとり戻せば、恒大集団は破綻から免れるのかもしれない。