「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

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なぜ不祥事、不正は続いてしまうのか【賢人と佞者】渋沢栄一と五代友厚 ~論語と算盤 #17

 

 三菱電機みずほ銀行、大手企業での不祥事が相次いでいます。三菱電機では、柵山会長が引責辞任し、経団連副会長も辞任したそうです。

その経団連の初の女性副会長になったDeNA南場智子氏が、「新陳代謝が進みにくい日本企業、その集合体でもある日本の経済は、まるで沈みゆくタイタニック号ではないか」と強く危機感を抱いているそうです。

 何か三菱電機の実態をあらわしているのではないかと感じてしまいます。

 JIJI.COMによれば、 三菱電機で不正が繰り返された背景には「内輪意識」や「閉鎖的な組織」などがあるそうです。

 

 

経団連」、総合経済団体として、企業と個人や地域の活力を引き出し、日本経済の発展と国民生活の向上に寄与することを使命としているといいます。

会員企業の意見が経団連の提言に反映されて政府などに働きかけられるため、会員企業にとっては、自社あるいは業界のビジネス環境が意向に沿った形で整備される可能性が高まります。(中略)業種を越えた幅広い人脈を構築できることもメリットです。(出所:マイナビ

ちょっと一息、「中から見た経団連」レポ(でもまだ入り口の話):日経ビジネス電子版

 南場氏が、その経団連の活動を紹介しています。月1回、会長・副会長会議があるそうで、3時間近くの長い会議といいます。

「皆さん博識というか、ものすごく勉強しています。我が国経済のどんな問題も自分の言葉でお話しされます」といいます。

まず、議題が決まっていて、その課題提起を関連委員会の委員長がなさり、そのあと、全員が3~5分、考えを述べます。もちろん、強力なスタッフが原稿を用意していますが、用意する段階でご自身の考えを織り込んでいるので自然と自分の言葉で論じます。うわー、賢人たちだ…!という印象。 (出所:日経ビジネス

「ビジネス界の賢人にはたくさんお会いしていますが、これだけ密度高く勢ぞろいすると迫力を放つ賢人感。そして国のためを真摯に思っていることも伝わり、人の話を黙って聞くのが苦手な私も、飽きずに聞き入ります」と南場氏はいいます。

 こうした場に三菱電機の会長もいたことが気になります。その賢人感は偽りなのでしょうか。

 

 

論語の教え

祝鮀(しゅくだ)の佞(ねい)有らざれば、宋朝の美有るとも、難(かた)いかな、今の世に免(まぬか)るること」と、「雍也第六」16 にあります。

「祝鮀のような優れた弁才がないならば、宋朝のような美貌があっても、難しいな、今の世を生き抜くのは」との意味です。

dsupplying.hatenadiary.jp

「祝鮀」とは、衛の霊公に仕え、ある国際会議で席次争いのとき、雄弁をふるって勝利し名をあげたといいます。

 今も昔も、弁才がないければ、厳しい世の中は無事にわたっていけないということなのでしょうか。

 論語にはたびたびこの「佞」という言葉が登場します。「佞」とは弁才のこと。渋沢栄一が、「佞」か否か判然としなかったのが五代友厚氏といいます。

五代氏が官界を去つたのは自ら期する所があつた為めか、将た官界に居られぬやうな事情になつた為めか、其の辺の所まで、私に於ても詳く存ぜぬが、私が官界を退いて実業界に力を尽すことになるや、私に対ひ「渋沢は東京で聢かり活動てくれ、五代は大阪の方で活動するから……」なぞと申されたものである。

別に私は五代氏と約束して東西相呼応し実業界で活動く事になつたといふのでも何んでも無いが、兎に角、私も五代氏も殆ど同じ頃に官途に志を絶ち、実業界に身を投ずることになつたもので、五代氏は鉱山とか製藍事業とかいふものに関係し、大阪商法会議所などを起して、之が議長になつたりしたのである。(出所:実験論語処世談 渋沢栄一記念財団)

 

 

 栄一は、五代の人柄を、「長上に取り入ることの巧みな人で、大久保公なぞへは能く取り入つて居つたものであると、その人柄を説明する。碁の相手もすれば煎茶なぞもして、人ザワリの実に巧いものであつた」といい、「それだからとて全くの幇間に流れて、徒に長上の意見に附和雷同するんでもない。そこの呼吸が実に妙を得て居つたものだった」といい、実際に於いて、五代氏は「佞」の人であつたかも知れぬといいます。

五代友厚は仁か佞か | デジタル版「実験論語処世談」 / 渋沢栄一 | 公益財団法人渋沢栄一記念財団

 渋沢栄一が、その「佞」と「仁」の違いを次のように解説しています。

人物の鑑識眼に富んだ人は、皆能く適材適所に置き、佞と仁とを混同して視るやうな事の無いものであるが、「あれほどの怜悧な人で、如何して人物の鑑識に拙だらう」と思はるるほどに佞と仁との区別がつかず、佞者を至極善良の人であるかの如くに鑑識違いを致して之を近づけたりなぞする例は、古今を通じて少く無い。

之が原因は私にも些と解り難いが、要するに、己れを空うせずして他人に対し、その人を用ひて自分が利さうとか、或は又、その人に接して自分が快い気分にならうとかいふ如き私心のあるのに因ることだらうと思ふ。

自分を主とせず、対手の人を主として稽へ、その人の利益幸福を増進する為にその人を用ひてやらうとの気でさへあれば、人物の鑑識も公平になり、佞者を優しい仁の心のある者だなぞと間違へる事も無く、単に人ザワリが佳いからとて、佞人を用ひて、之に陥れられるといふ如き憂ひは、決してあるべき筈のもので無い。(出所:実験論語処世談 渋沢栄一記念財団

 では、南場氏の眼識はどうのなのでしょうか、「賢人」と「佞者」を見極めることができているのでしょうか。

 

 

 南場氏は、自ら手を挙げて、経団連のスタートアップ委員会委員長を務めているそうです。日本社会の人材の流動性が低いことを危惧し、改革を引っぱっていくような自由な発想の組織に変われるかが、求められているといいます。

日本経済は沈みゆくタイタニック?再生の鍵は DeNA南場智子会長:朝日新聞デジタル

私自身も責任を感じ、若い起業家を意識して応援しています。商習慣をはじめとするボトルネックを具体的に解消して、スタートアップに挑みやすくしたい。特に次の世代には世界と勝負して、日本経済を引っぱっていくリーダーになってもらいたいからです。 (出所:朝日新聞

 栄一の言葉を借りれば、「仁」のように感じますが、五代の例からするとどうなのでしょうか。 それだけ人をこうだと断じることは難しいことなのかもしれません。

益者三友、損者三友

「益する者の三友あり。損(そこ)なう者の三友あり。直なるを友とし、諒(りょう)なるを友とし、多聞(たぶん)なるを友とするは、益するなり。便辟(べんへき)なるを友とし、善柔(ぜんじゅう)なるを友とし、便佞(べんねい)なるを友とするは損なり」と、論語「季氏第十六」4 にあります。

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「自分にとって有益な三種の友がある。逆に、有害となる三種の友がある。まっすぐな友、義理固い友、博識の友、これは有益である。しかし、追従する友、裏表のある友、口先の巧みな友、これは有害である」と意味します。

 不正の連鎖が止まらぬ三菱電機は、損者で身の回りを固めてしまったのかもしれません。

三菱電機、柵山会長が引責辞任 検査不正、背景に「内輪意識」:時事ドットコム

長崎製作所で製造した鉄道車両用空調装置の一部検査結果の捏造については、2018年度の点検で当時、担当の事業本部長だった漆間啓社長にも報告されていたと認定した。ただ、長崎製作所の説明を受け入れ、不正とは認識しなかったという。 (出所JIJI.COM)

 益者、損者、言葉で表現すれば、その違いは明らかですが、現実の人付き合いの中でそれを見極めることは実は難しいということなのかもしれません。