「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【君子は賢を尊びて衆を容れ、善を嘉して不能を矜れむ】 Vol.480 ~大規模接種のシステム不具合について

 

子夏(しか)の門人 交わりを子張(しちょう)に問う。子張曰わく、子夏は何とか云えるか、と。対えて曰わく、子夏曰わく、可なる者は之に与(くみ)し、其の不可なる者は之を拒(ふせ)げ、と。

子張曰わく、吾が聞く所に異なり。君子は賢を尊びて衆を容(い)れ、善を嘉(よみ)して不能を矜(あわ)れむ。我の大賢ならんか、人に於いて何ぞ容れざる所あらん。我の不賢ならんか、人将(まさ)に我を拒がん。之を如何(いかん)ぞ其れ人を拒がん、と。(「子張第十九」3)

 

(解説)

子夏の門人が友人のつきあいについて子張に質問した。子張は「お前の師の子夏はどのように言っているのか」とまず問うた。その弟子は答えた。「子夏先生は、友として良い者とはつきあい、良くない者は遠ざけよ、と教えた」。

子張はこう述べた。「私が学んだのはそれと異なっている。君子 教養人は「賢を尊び、人々を受け入れる」、「善を褒め、できないことを憐れむ」。自分が大いに賢ければ、誰もが受け入れ、自分が賢くなければ、人々は自分を拒む。自分から人々を拒むことはしない論語 加地伸行)  

  

 

 

「君子は賢を尊びて衆を容れ、善を嘉して不能を矜れむ」

 ワクチンの大規模接種の予約システムに欠陥があったことが発覚した。一部メディアがこれを報道し、これに政治家が反応する。

君子は賢を尊びて衆を容れ、善を嘉して不能を矜れむ

 短納期といえども、納品したシステムに不具合があることは問題であるが、それを指摘したメディアを非難しては、恥の上塗りにならないだろうか。それに加え前の首相までがメディア非難をする。狭量さを感じずにはいられない。

 問題が生じたならば、まずは自ら非を認める。非を認めれば、最善の策を取ることもできるだろう。本来不具合のあるシステムは納入者が可及的速やかに修正すべきであるが、緊急事態である。ミスを犯し責任あるリーダーが国民に注意喚起し、協力を求めてもよいのではなかろうか。

 失敗を犯しそれを取り繕うとすれば、それは失敗のままになる。失敗を認め、それを正そうとすれば、それは失敗でなくなる。

 緊急事態、政府の行動で、直接、感染を食い止めることはできない。なぜならコロナは人から人へと感染する。国民の協力が不可欠のはずだ。どんなことがあっても、その姿勢に変化があってはならない。非を認め、協力をお願いすれば、賢明な判断と受け止めてくれたかもしれない。

 

 

「子張」、姓は顓孫、名は師、字名が子張。陳の人で、孔子晩年の弟子。もっと若く秀才といわれる。「礼」の専門家。「史記」に、「師や僻なり」とあるように、時として正統を離れる異説を好んだようである。

dsupplying.hatenadiary.jp

 

 「子夏」、姓は卜(ぼく)、名は商。孔子より44歳若く、孔子学団の年少グループ中の有力者。文学にすぐれた、つまり最高の文献学者だったという。孔子晩年の弟子。

dsupplying.hatenadiary.jp

 

 子張と子夏が議論したとき、子夏の激しい調子を批判し、孔子のゆったりと相手の意見を聞く態度を学んでいないといい、さらに、小人の議論は、自分の意見だけが正しいと言い張り、目を怒らせ、腕をむき出しにし、早口で口から涎(よだれ)がたれ、目が赤くなり、勝を得ると喜びまわる等々と言ったという。

 子夏に申し訳ないが、そんな政治家がいたような気がする。

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

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  • 作者:加地 伸行
  • 発売日: 2009/09/10
  • メディア: 文庫
 
論語 (ちくま文庫)

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  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫