子曰わく、知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼(おそ)れず。(「子罕第九」29)
(解説)
「孔子の教え。賢人は迷わない。人格者は心静かである。勇者は懼れない。」(論語 加地伸行)
桑原の解説
君子に不可欠な三つの属性があることをいっているという。朱子も仁斎も、知、仁、勇を学問する時間的順序とし、まず知を磨き、仁においてそれを完成し、正しい道を勇気をもって実践するととるが、これは同時存在的にとるほうが自然であろうという。
「知者は学問をしてその目が明らかに冴えているから惑うことがない。仁者は人間を愛し、究極において善意の勝利を信じているから憂えることがない。勇者はおのれ一個のためではなく、天下のためによき決意をしたのだから、いかなることがあっても恐れないのである」と桑原は解説する。
「子曰わく、君子の道なる者三つ。我能(よ)くすること無し。仁者は憂えず、知者は惑わず、勇者は懼れず。子貢曰わく、夫子自ら道(い)える也」(「憲問第十四」28)
孔子の三つのことができないというの対し、子貢がそれは先生ご自身のことをおっしゃったのだと付言したのだが、それでは謙遜行き過ぎで面白くない、この章の方が簡明だと桑原はいう。
この章を読んで、テスラの創業者イーロン・マスクのことが頭に浮かんだ。
テスラが9月22日、株主総会を開催し、その第2部では「バッテリーデー」と称し、バッテリー開発の進捗状況と将来の見通しについて発表があったという。また、3年後には260万円というお手頃価格のEVを販売するという。が、「まだ試験生産水準には至っていない」とも発言したようだ。
夢のように聞こえる話も興醒めなのか、株価は一時7%近く下落したという。
マスクは以前、バッテリーデーが“insane(常軌を逸した)”な内容になると豪語していたが、開催前日の9月21日になって、「2022年まで大量生産は実現しない」とツイートしていた。 (出所:Forbes)
テスラの「秘密のマスタープラン」をいうのがある。公表されているから、秘密ということでもないのかもしれないが。それは、
「スポーツカーを作る。その売上で手頃な価格のクルマを作る。さらにその売上でもっと手頃な価格のクルマを作る。上記を進めながら、ゼロエミッションの発電オプションを提供する。これは、ここだけの秘密です。(出所:テスラ公式サイト)」
このマスタープランに従えば、現在の主力モデル「モデル3」よりさらに廉価なEVを出すことはごく当たり前のことなのだろう。
世界を持続可能なエネルギーへ
テスラは100%電気自動車だけでなく、限りなく拡張可能な、クリーンエネルギーを発蓄電する製品をも製造する会社となり、世界の化石燃料への依存に終止符を打ち、ゼロエミッション社会への移行を加速することで、より良い未来を実現したいと考えています。 (出所:テスラ公式サイト)
(写真:テスラ)
これがイーロン・マスクの「志」なのかもしれない。そうであるならば、バッテリーを内製化することもごく当たり前のことなのだろう。
バッテリーを内製することで、「ゼロエミッション社会への移行を加速する」ことがつながっていく。
知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず
イーロン・マスクは稀代の変人か天才なのか。
いや、もしかしたら、現代の君子なのかもしれない。
(参考文献)