子曰わく、孟之反(もうしはん)伐(ほこ)らず。奔(はし)りて殿(しんがり)す。将(まさ)に門に入らんとするとき、其の馬に策(むちう)ちて曰わく、敢えて後るるに非ず。馬 進まざるなり、と。(「雍也第六」15)
(解説)
「孔子の教え。孟之反は自慢をしない人であった。敗走したとき、殿軍の長の役割を果たした。軍門に入ろうとするとき、馬に鞭をあてて急がせ、こう言ったという。「自分から殿をしたわけではござらぬ。馬が進みませんでな」と。」(論語 加地伸行)
桑原の解説。
孟之反は魯の大夫、孟孫氏の一族。勇士として知られていたという。
前484年、魯が斉の国と戦って敗北し、魯軍は曲阜城内に逃げ帰ったが、そのさい殿(しんがり)をつとめたのが、この孟之反であったという。
孔子は、孟之反が殿を見事につとめて誇らぬ姿を見て、功を誇らぬゆかしい情景を記録しようとしたという。
これに反し仁斎は、これは本当にこの勇士の馬が早く走らなかったからで、彼は嘘をつくような男ではなく、また孔子がそんな嘘をほめるはずがないといったのは、平素のよみの深さを裏切るものだと桑原はいう。それでは静かに馬に鞭を加えるその情景の美しさを、まったく解しないことになると指摘する。
(参考文献)