「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

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【子公冶長を謂う。妻わす可きなり】 Vol.96

 

 子 公冶長(こうやよう)を謂う。妻(めあ)わす可(べ)きなり。縲絏(るいせつ)の中に在りと雖(いえど)も、其の罪に非(あら)ざるなり、と。其の子を以て之に妻わす。(「公冶長第五」1)

  

(解説)

孔子は公冶長についてこうおっしゃられた。私の娘と結婚させてよい。彼がかつて牢屋に捕らわれていたことがあっても、それは冤罪であったと。そして、御自分の娘を嫁がせたのである。」論語 加地伸行

 

「公冶長」、孔子の弟子であるというが、その事跡は何もわかっていないという。ただ彼が鳥の言葉を聞きわけることができ、そのために行方不明になっていた幼児の屍体のあり場所を知り、それを家人に話したことから殺人犯の疑いをうけ入獄したという伝説があるという。これは皇侃の説だという。

 一方、加地は別説を紹介する。皇侃の説と同じように鳥の言葉を理解でき、貧しくて食べるものがなかったとき、雀が公冶長にこう話しかけた。南山に虎が羊を運んでいるぞ。お前は肉を、俺は腸(はらわた)を食おう、早くいけと、そこで行ってみると、虎の食い残しであろう、本当に羊がいたので食べることができた。その関わりで、羊を亡なった家を訪ねてたどり着いたところ、羊の角があったので、偸(ぬす)んだ。これを訴えられて、魯君は公冶長を捕えて獄舎に入れた。ところが、雀がまた来て、隣国の斉国が軍を出して沂水まで来ているぞと公冶長に教えた。驚いた公冶長が獄吏にそれを告げた。これが魯君に伝わり、早速調べてみるとそのとおりであったので、魯軍が急襲して大勝した。そこで魯君は公冶長を釈放し、大夫の位を与えようとしたが公冶長は固辞したという。

 加地はこれは伝説にすぎず、公冶長の罪が何であったかわからないという。孔子が罪を否定しているところから推測すると、冤罪であった可能性がたかいという。

 

 公冶長は論語の中でこの章にしか登場しないことを理由に桑原は、彼が門下生の中で優秀ではないし著名でもないとみる。普通にみれば前科者である彼に、自分の娘をやろうというのは、ずいぶん風変わりな行動とせねばならないと桑原はいう。この孔子の発言ないし行動の突飛さに孔子一門をひどく驚かせたに違いない。「だからこそこの篇の最初にこの章をおき、その名を篇の名としたに違いない」といい、意味深く受け取れると解説する。 この公冶長篇は人物論28章からなる。

   

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  
論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)