「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

切磋琢磨【往を告げて、来を知る】故 瀧本哲史さんを思ふ。学問の道に終わりはない  Vol.20

  

子貢曰わく、貧にして諂うこと無く、富みて驕ること無くんば、如何、と。子曰わく、可なり。未だ貧にして楽しみ、富みて礼を好む者には若(し)かざるなり、と。

子貢曰わく、詩に云う、切するが如く、磋するが如く、琢するが如く、磨するが如し、と。其れ斯の謂いなるか、と。子曰わく、賜や、始めて与に詩を言う可きのみ。諸に往を告げて、来を知る者なり、と。 (「学而第一」15)

  

(意味)

門人の子貢が孔子に尋ねた。「貧乏であっても、どんな術を使ってでも物を求めるようなことはせず、金持ちになっても物力で偉そうにしたりしない。そういう生き方はいかがでしょうか」と。すると孔子はこう答えた。「まあまあというところだな。貧しくとも人間の生き方を考えたり、豊かであっても世の道理を求めようとする者には及ばない」と。

 子貢は、こう言った。「詩にあります。切るごと、磋(と)ぐごと、琢(う)つごと、磨(す)るごとと。それをおっしゃりたいのですね」と。孔子は褒めた。「賜君、分かっている君となら詩を談じ合える。話を一度聞くと、その先のことが見える力がある」と。 (論語 加地伸行

 

「諂」、へつらうとする解釈のほか、貧しさゆえに規範を守らないという解釈もあるという。正しくないこと、不義。

「驕」、もとは馬の背の高いことで、高所から見下ろす感じ。

「楽」、「楽道」(道を楽しむ)となっていたものもあったので、「楽」「好礼」はともに精神の向上と加地は解する。 

 

  

一方、桑原はこう解説する。

「秀才の子貢が、貧乏はしていても媚び諂うことなく、金持ちであっても高ぶらない、というのはいかがでしょうか、と聞いたのに対して、孔子が答えた。いいことだ、しかし、貧乏でありながら楽しく暮らし、金持で礼を好む者には及ばないだろう。そうした先生の答えに接した子貢は、すぐさま『詩経』の「衛風」の「淇奥(きいく)」の第一章を想起して「切磋琢磨」とはこのことを言うのでしょうか、たずねたのである。

 彼の淇のかわの奥を瞻(み)れば

 緑の竹の猗猗(いい)とうつくし

 有にも匪(あざや)けき君子は

 切するが如く磋するが如く

 琢するが如く磨するが如し・・・

緑の竹藪のそばに立派な貴族が立っている。それは衛の名君武公だとされ、彼が人格修養につとめることを歌ったものとされている。つぎの四文字はすべて加工を示す動詞であって、骨は「切」、象牙は「磋」、玉は「琢」、石は「磨」という。道徳をいやがうえにもみがくという意味である。子貢は諂いと驕りのないことを最高と考えていたのだが、孔子に教えられて、学問の道には終わりがないことを悟って、この詩を流用引用したのだと仁斎はいう。

 

 

 子貢がさすが文学の士らしく、道徳論にたいして古典の美しい詩句を引いて応じたのを、孔子はいたく喜んで、お前はいっしょに詩の話ができる人間だとほめたのである。「往」は過去、「来」は未来を示すという。お前こそ物事を、そして、言葉を、次元を変えて飛躍的にとらえることのできる頭脳の持ち主だ、といったのである。」(論語 桑原武夫

 

 子貢、本名を端木賜(たんぼくし)といい、孔子より32歳年少。孔門十哲の一人。「言語に宰我(さいが)、子貢」(「先進第十一」3)と言われるように、弁舌にすぐれた秀才で、利殖の道にもたけて孔門第一の金持になったという。  

dsupplying.hatenadiary.jp

 

孔安国の注に「切磋琢磨は孤独の瞑想ではなく、群居して、朋友が相互に錬え合うことだ」とあるという。

 

 先日、瀧本哲史さんがお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします。

 私たち、特に若い世代に向けてのメッセージや多くの示唆を発信続けてくれたのではないでしょうか。雑誌Forbesの記事 追悼 瀧本哲史さん 30年来の友人が語る「天才の人間性」 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン) で彼の人となりを知ることができ、改めて彼の足跡を簡単にたどってみた。

 

 

『往を告げて、来を知る』そんな人であったようだ。

  彼の著作やインタビュー記事は多数残っています。以下に一部ですが紹介する。

 彼の先見性や明晰さをお伝えできればと思う。次の時代を担う若者へのメッセージ、事業への投資から彼のぶれない一貫性ある行動をみることできる。彼が遺したものを、誰かが引き継ぎ、その次の世代へと脈々とつなげていく。そして、日本が変わっていく。それが私たちの使命かもしれない。

 『往を告げて、来を知る。』 彼もまた、物事を、そして、言葉を、次元を変えて飛躍的にとらえることのできる頭脳の持ち主だったのではないだろうか。 

──最近、ビジネスパーソンにも哲学や古典、リベラルアーツなどの教養が必要だと言われますが、瀧本さんはどう考えますか?
私は、差別化のための新しい切り口のヒントは、他の分野にあると思っています。その意味で、長い歴史を生き残った哲学や古典、なかでもその時代を代表する最高の頭脳が残したものには、それなりに大きな価値があるのです。

要するに、簡単に学習できるものは、みんなが学んでいるので価値がないのです。それに尽きます。(出所:newspicks)

newspicks.com

 

──巨大資本が、ベンチャー投資も総取りしていく時代になってきていますね。
みんなお金の大事さが分かっていません。ほとんどの場合最後は「資本がすべて」なのですが、それを多くの人が忘れていると思います。
であるからこそ、私は学生たちにもよく話しているのですが、「努力が報われること」はコモデティ化するので絶対にやってはいけません。これは「資本がすべて」のゲームになってしまいます。逆に言うと、「努力が報われるかどうかがわからないこと」をやらなければいけないのです。(出所:newspicks) 

newspicks.com

 

 「日本中に小さなチームが生まれて、あちこちで変革が起こることをサポートすることが、自分の使命であると考えています。小さな変化が積み重なっていけば、日本は変わっていく。この本もそのための手段の一つです (出所:gendai ismedia)

gendai.ismedia.jp

 

 

僕は君たちに武器を配りたい

僕は君たちに武器を配りたい

 

 

君に友だちはいらない

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ミライの授業

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(参考文献) 

論語 (ちくま文庫)

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論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)