「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

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親孝行とは 【父在せばその志を観、父没すればその行いを観よ】 Vol.16

 

子曰わく、父在(いま)せばその志を観(み)、父没すればその行いを観よ。三年父の道を改むる無きを、孝と謂(い)う可し。 (「学而第一」11)

  

(意味)

「父親が在世のときは、父のめざすところを見るのがいい。父親が亡くなれば、父の行ないを見るのがいい。三年の喪が明けるまで、父が定めた家のありかたはそのままにしておくというのであるならば、孝子ということができる。」論語 加地伸行

 

 桑原はこの文章を以下のように解説する。

 孔子は、孝をすすめて、子供たちよ、生きているうちに親を大切にせよ、父がはっきりと言葉に出して要求しない先に、父が何を望んでいるかを洞察せよ、という。

 「志」とは方向のある感情ということである。

 ひとたび父が亡くなったあかつきには、生前の営みをなつかしく想起し、その意のあるところを推察して、これに見習う。父を敬愛しているから三年の服喪の間は、父のやり方を改める気持ちにはならない。そういうのを孝行息子と考えていいのではないか。

 この解釈のほうが規範性が乏しいかわりに、自然の人間性に富んでいて、孔子の発言としてふさわしいのではなかろうか。

 

 

 白洲正子さんの「金平糖の味」という本がある。この中に「親孝行とは」との章がある。正子さんのさりげない語り口に引き込まれる。

ただ子供として、はげしくはないが一生忘れることの出来ない愛情が、死んだ後々までも感じられるだけだ。その肉体は滅びたが、父は私の中に生きている。今となっては、その父の姿を何らかの方法で活かすことしか残されていない。

私達親子は、まるで正反対の性格で、私にはとてもあのような生き方は出来ないし、しようとも思わないが、別の形で手本になることは沢山ある。

あの忍耐づよさ、自分自身に対する厳格さ、またそれを人にしいることのない自由な精神、それらは父を通してある普遍的な美しさを私に教えてくれる。雄弁は銀、沈黙は金、今は忘れられた尊い玉条も、父のことに思いを及ぼす時私に返ってくる。そういう遺産を身につけたら、はじめて恩返しも出来るというものだろう。

親孝行は、何も生きているうちだけのことではあるまい。父が死んでから、私はそういうことに気がついた。 (引用:金平糖の味 白洲正子

金平糖の味 (新潮文庫)

金平糖の味 (新潮文庫)

 

 

 白洲正子さんの父は樺山愛輔さん。正子さんの夫は白洲次郎さん。

 父が亡くなり、白洲正子さんのことばに救われた。そんな形での親孝行もあるかと。それがあってのことかどうかはわからないけど、桑原の解説に引き込まれた。

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 桑原は、『父在せばその志を観、父没すればその行いを観よ』の解説で、父のやり方が正しくなかった場合、反道徳的であった場合、子はどうするべきは難問で、また、三年は長すぎないかと疑問を投げかける。

 現代においては、冒頭に記した正子さんのような親孝行のカタチもよいのではと思う。

 

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「三年」の意味を加地が解説する

「三年」とは「三年之喪の間」の意。儒教儀礼では、父母や主君の詩に対して三年の喪中となる。これは最高の悲しみを表すので最長期間である。ただし、死は遠ざけるという意味で、死亡した日の前日を死亡日とする。2年後の死亡日が満二年目の命日となる。その翌日が三年目に入った第一日目となるが、わずか1日でもあってもこの一日をもって数え年の三年目とする。満二年目の命日が三年の喪をした日となる。この日をもって死者の霊魂は祖先となるめでたい日で吉礼となるので、大祥(満一年目を小祥)と呼ぶ。

 この考え方が中国仏教、日本仏教に入り、大祥、三年の喪が三回忌となり、二年の喪の小祥が一周忌となる。この喪に服す期間は、自分との関係によって異なる。

 現代の日本では、年賀欠礼の挨拶は、死者の誰に対してもすべて一律に1年間(小祥)としているが、これは最近の俗習だと加地はいう。 

 

  

「子張第十九」18では、孟荘子が父の時代からの家臣と政策を改めなかったことが孔子によって高く評価されている。孔子の教説のひとつの要といえるだとうと桑原はいう。

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 儒教は、西洋思想の東漸まで、漢字文化圏をながく支配していた。その根本思想の一つとして孝道が、どのように強力に社会を規制していたかは、現代人には理解困難であろう。(論語 桑原武夫

 

(参考文献) 

論語 (ちくま文庫)

論語 (ちくま文庫)

 
論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)