「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

世界で最も影響力のある100人「Time 100」に選ばれる人たち ~炉辺閑話 #38

 

 米誌タイムが毎年恒例の「世界で最も影響力のある100人」を発表した。日本からは「アイコン(象徴)」部門で、テニスの大坂なおみ選手、米メジャーリーグ エンゼルス大谷翔平選手が選出され、「イノベーター(改革者)」に、建築家の隈研吾さんが選ばれた。

TIME100: The Most Influential People of 2021 | TIME

 隈研吾さんの紹介文をTimeに寄稿したのは、滋賀県立美術館の館長の保坂健二朗氏。隈氏が手掛けた東京五輪のメイン会場の新国立競技場についてふれている。

 全国の都道府県から調達した木で作れた庇(ひさし)が周囲の緑ある庭に溶け込み、失われていく建築の理想、つまり周囲の環境にとけ込む手の込んだ複雑な建物を擁護したという。建築家にとって、公共プロジェクトは表現の自由を制限することが多いが、それでも自然な共感を得て、コミュニティに歓迎される新しい空間を作り出したという。

 これまでの無機質になりがちだった都会に、木材を利用し、自然と調和するオアシス的な場所を創造してことが認められたのだろうか。

 

 

 「タイタン(大立者)」の部門には、アップルのティムクックCEOが選出されている。日本にゆかりのあるNIKE創業者のフィル・ナイト氏が彼を紹介する。

ティム・クックCEO、TIME誌「世界で最も影響力のある100人」2021年版に選出 - iPhone Mania

クック氏を卓越した判断力と、リーダーにとって最も重要な資質である知性を持つ人物と評価し、クックにとって最大の困難は、スティーブ・ジョブズ氏からAppleのCEOを引き継いだ時だった、と振り返ります。 
世界から天才として敬愛されたジョブズ氏からの、不可能とさえ思われた継承をクック氏は優雅さと気品をもって成し遂げ、自分は二代目スティーブ・ジョブズではなく、初代ティム・クックであることを静かに宣言した、とナイト氏は綴っています。 (出所:iPhone Mania) 

 そのティム・クック氏は、ジョブズ氏が成し得なかったアップルを世界一の企業に導き、環境やプライバシー保護でも世界をリードする存在になっている。

論語の教え

「犁牛(りぎゅう)の子も騂(あか)く且つ角あらば、用うる勿(なか)らんと欲すと雖(いえど)も、山川其れ諸(これ)を舎(す)てんや」と、論語「雍也第六」6にある。    

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「犁牛」とは農耕用のまだら牛のこと。ふつう山川を祭るさいの犠牲としては特に飼育された赤牛が用いられるのだが、たとえつまらぬまだら牛の子であっても、その毛色が赤く、形の正しい角を持っていたならば、これを用うべきであって、もし人間がこの子牛を無視して犠牲に使うまいとしても、山川が捨てはしない、見捨てておくはずがない (出所:論語 桑原武夫

 時代、時代に求められる人物を世の中が見捨てるはずはないともいえるのだろうか。

 「牛」にたとえられたのは、孔子の弟子「仲弓(冉雍)」。天子や大名になる資格があるとまで賞められたが、出身が賤しいうえに、その父親の行状がよくなかったという。孔子は、人間を評価するのに、その出身によるべきではなく、本人の徳行と才能によらねばならないと考えていたので、彼を「牛」にたとえて彼を評価したという。

 しかし、なぜ「犠牲」を例としたのだろうか。

「犠牲」、ほかの人やある物事のために生命や名誉・利益を投げ捨てること、また、いけにえとも読む。

 

 

 タイムに大坂選手の紹介文を寄せたのは、NFLアメリプロフットボールリーグのラッセル・ウィルソン選手。NHKによれば、大坂選手が人種差別に抗議の意志を示したことに加え、メンタルヘルスの問題で苦しんでいると明らかにしたことにも触れ、「自分の弱さを共有してくれたことは、とても意味のあることだ」と称えたそうだ。

 一人のコーチにその実力を見出され、あっという間に、世界のトップに躍り出て、東京オリンピックでは聖火の最終ランナーにも選出された大坂なおみ選手。

 もしかしたら、こうした人々が繰り返し登場し、その努力を犠牲にしないと、今、社会が標榜するプライバシー保護や環境、ダイバーシティ&インクルージョンが定着していかないのかもしれない。

 

【ゲノム編集と倫理】自然界に存在しない、ゲノム編集されGABAを多く含むトマトの販売が始まる ~炉辺閑話 #37

 

「神秘」、人間の知恵では計り知れない不思議、普通の認識や理論を超えたことをいいます。

 現代は、古代に比べれば「神秘」と呼ばれるものははるかに少なくなっているのでしょう。自然を司る自然法則の解明が進み、神秘の謎が解き明かされてきました。

 宇宙の神秘、生命・生殖の神秘、思考の神秘、まだまだ完全に解き明かされていないものもあるのではないでしょうか。その一方で、人間はその「神秘」にこれまで挑戦してきたといっていいのかもしれません。人工授精や人工知能などはそのよい例ではないでしょうか。

 

 

 人の思考プロセスを大脳科学で解明し、それを人工的に再現しているのが人工知能なのでしょうか。

 人間の行動の源泉になる記憶のアーカイブを、人工的に、機械的に学習させることができるようになりました。ひらめき、創発、想像、理性による抑制など、この先、人工知能が人間の大脳活動に近づいていくのでしょうか。

 人工知能による、最適解の提示などはある意味、人間のひらめきの一種といっていいのかもしれません。すでに将棋では人間より人工知能が勝っています。テクノロジーの進歩の勝利と言っていいのでしょうが、はたして人工知能が人間より勝っていいのかと考えると、そこには倫理の問題が生じるのではないでしょうか。

 遺伝子情報も生命の神秘のひとつなのでしょう。その遺伝子情報をゲノム編集技術を使って改変できるようになっています。その成果として、国内で初めて、「GABA」、血圧を下げる効果があるとされる成分を多く含むように品種改良されたトマトの販売が始まりました。人にとっては有用かもしれませんが、自然界には存在しないトマトです。人間のエゴのようにも感じてしまいます。

 

 

 NHKによれば、ゲノム編集の技術を使った「ゲノム編集食品」は、「遺伝子組み換え食品」とは異なり、別の遺伝子を組み込むなどしていないことから従来の品種改良と安全性は変わらないとして厚生労働省に届け出をすることで流通できるようになっているそうです。

「ゲノム編集」で品種改良のトマト 一般への販売開始 国内初|NHK 首都圏のニュース

 このトマトを開発した「サナテックシード」の竹下達夫会長は「ゲノム編集食品に対してはまだ十分に理解されていない部分もあって商品として売るのは大変だと思ったが、事前に募集したモニターに苗を育ててもらった際には評判がよかった。万全を期して販売に踏み切った」と話しているそうです。

ゲノム編集の技術を使うと遺伝子を自在に操作することができます…(中略)事前に厚生労働省と相談し、遺伝子をどう改変したかや、アレルギーの原因物質や毒性がある物質が増えていないかなどの情報を届け出ることになっていて、ゲノム編集食品であることを表示する義務はありません。 (出所:NHK

 難しい問題のように感じています。虚偽はないとする人の良心を基本にした法律なのでしょうか。悪意ある人がゲノム編集を利用すると…なんて想像すると恐怖を覚えたりします。

 

 

「デザイナーベイビー」、遺伝子を操作し子どもの特徴を改変してしまうことだを言います。また、2018年には中国で、ゲノム編集した赤ちゃんが誕生して話題になりました。

「世界初のゲノム編集赤ちゃん」の正当性主張 中国科学者 - BBCニュース

 ゲノム編集は、すでに一部の深刻な難病治療に活用されています。かと言って、受精卵のゲノム編集は許されるのか。当時そんな議論がありました。直接生まれる子供だけでなく、未来の子孫にも影響する可能性があるとして、科学界は深刻な懸念を示したといいます。

論語の教え

「子張問えらく、十世知る可(べ)きか、と。子曰わく、殷(いん)は夏(か)の礼に因り、損益する所知る可し。周は殷の礼に因り、損益する所知る可し。其れ或いは周に継ぐ者、百世と雖(いえど)も知る可きな」と、論語「為政第二」23 にあります。

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 孔子と弟子の子張の問答で、子張がこのあと「周」についで次々とあらわれるであろう十の王朝のことを、今から予知できるでしょうか、と質問をすると、孔子は、それは予知できるはずではないかといい、殷の王朝は前の夏の王朝の礼制を受け継いだ、そのさい廃止(損)あるいは付加(益)したところはわかるはずだ。周王朝の殷王朝に対するする関係も同じことである。したがってもし周を継ぐ王朝がいろいろでてくるにしても、十代どころか百代さきのことまで予知できるはずではないか、と孔子が答えたといいます。

 

 

 孔子人間性の本質の永久不変性を信じて、その社会における具体的表現である「礼」なるものは、部分的改変はさけられないにしても、その基本は永続すべきものだとしたと、桑原武夫は解し、人間的秩序の連続性を確認しているという。

地球が人口過剰で破滅に瀕してているときに、「生めよふやせよ、地にみてよ」という聖なる言葉はうつろに響かないだろうか、制度は変わっても人間性は永久不変という人の前に「試験管ベイビー」の可能性が提示され、「十世知る可し」といえるだろうか。 (出所:論語 桑原武夫

 テクノロジーの進歩も孔子が指摘した「礼」の如く、連続性をもって進化してきたともいえるのではないでしょうか。ただ飛躍的に進歩するテクノロジーに対して、それに対応する倫理や法が十分に追いついていないのかもしれません。

「法律は最低限のモラルにすぎない」、「誰もが公共を意識しなければ、社会というものは成り立たない」といったのは、闘う弁護士といわれた故中坊公平氏。

 法や規制が追い付かない、テクノロジーが先行するような社会においては、倫理や道理の重要性が増していないでしょうか。時代時代に合わせて、倫理のアップデートが常に求められているのでしょう。

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人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし、急ぐべからず.....

と、家康の遺訓にあります。

「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし。急ぐべからず。
不自由を常と思えば不足なし。こころに望みおこらば困窮したる時を思い出すべし。
堪忍は無事長久の基、いかりは敵と思え。勝つ事ばかり知りて、負くること知らざれば害その身にいたる。おのれを責めて人をせむるな。及ばざるは過ぎたるよりまされり」

この句を読むと、人類が少し急ぎ過ぎているように思えてなりません。不自由さを解消しようとするばかりに、過剰を生み出しているのではないでしょうか。行き過ぎはいたるところで見ることができます。

 天地自然の道理、自然の法則を冒してまで突き進むテクノロジーの進歩は人間のエゴに思えてしまいます。その最たるものがゲノム編集なのかもしれません。

 ゲノム編集に見合った人類共通の倫理の確立が急務になっているのではないでしょうか。

 

auとイーロン・マスクの衛星ブローバンド事業「スターリンク」が業務提携へ ~炉辺閑話 #36

 

 auブランドを展開するKDDIが、イーロン・マスクのSpace X(スペースX)の衛星ブロードバンド事業「Starlinkスターリンク)」と業務提携すると発表した。

 KKDIによれば、これまで利用が困難とされていた山間部や島嶼地域でも高速通信サービスが可能になるという。2022年をめどに、まず全国約1,200カ所から順次導入を開始するそうだ。

SpaceXの衛星ブロードバンド「Starlink」と業務提携、au通信網に採用する契約に合意 | 2021年 | KDDI株式会社

 その「Starlinkスターリンク)」は、高度560kmの周回軌道上に約1万2000基の人工衛星を打ち上げ、世界全体をカバーする通信網をつくろうとしている。

 その通信衛星は、低軌道上に配置されるため、従来の静止軌道衛星に比べて地表からの距離が65分の1程度と大きく近づき、大幅な低遅延と高速伝送が可能になるそうだ。

 

 

 約1500基の人工衛星が打ち上げ済みで、既に10万人以上のユーザーに2021年2月から、ベータ版のサービスが提供され、世界の人口の多い地域をカバーするように拡大を続けているという。

 スターリンクが特に重視するのが、地上インフラでは到達が難しい僻地へのインターネット接続サービス提供だという。

フォトログ:マスク氏の通信衛星、チリの寒村にネット接続の恩恵 | ロイター

 ロイターによれば、チリの寒村でもスターリンクの高速インターネットが利用できるようになったそうだ。

 多数の競合が存在する中で、今やスターリンクは、この低軌道を周回する人工衛星を使った通信サービスにおいては、世界の先頭を走る存在になっている。

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論語の教え

知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼(おそ)れず」と、論語「子罕第九」29にある。

 知者は学問をしてその目が明らかに冴えているから惑うことがない。仁者は人間を愛し、究極において善意の勝利を信じているから憂えることがない。勇者はおのれ一個のためではなく、天下のためによき決意をしたのだから、いかなることがあっても恐れない。 (引用:論語 桑原武夫

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 この三つの属性が君子には不可欠であるという。

 君子は、まず知を磨き、仁においてそれを完成し、正しい道を勇気をもって実践する。

デジタルデバイド

 スターリンクは、世界における「デジタル・デバイド」の解消を目論んでいるのだろうか。まだ世界中にインターネットにアクセスできない人たちが多くいる。

「デジタル・デバイド」とは、コンピュータやインターネットなどの恩恵を利用できる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差のことをいう。

 ロイターによれば、デジタル・デバイドの問題は新型コロナによるロックダウンで表面化したという。

 良好なインターネット接続を得られない人々は仕事や学習で困難に見舞われてしまうからだ。

 

 

「知者は惑わず、仁者は憂えず、勇者は懼れず」とは、スターリンク事業を始めたイーロンマスクのことを言っているのだろうか。

利に走ったネット企業

 中国では、インターネット関連企業に対する管理、監督が強化され、株式市場を震撼させた。

中国のネット企業、社会的価値の創造を=国営メディア | ロイター

 一方、規制当局は、新たな発展・イノベーションの手段を追求すべきだと主張、社会的な責任を担い、社会的な価値を生み出す必要があると、その規制強化を正当化している。

「インターネットの監督が強化される中、『産みの苦しみ』は避けられないが、チャンスにもつながる」と指摘。「本当に競争力があり、企業文化が良好で、絶えず経済的・社会的な価値を生み出す企業は今後も繁栄する」。(出所:ロイター)

 ロイターによれば、「健全な資本市場を支援し、起業家精神を促し、対外開放を堅持するという中国の信念は揺るがない」とし、「プラットフォーム経済の監督強化は、デジタル経済を精力的に発展させる中国の決意を示している」と指摘しているそうだ。

 正論を言っているだけにも聞こえるが、「利」にばかり走るネット企業が蔓延り、国内に存在する格差解消に目もくれていなければ、監督されて仕方ないのかもしれない。何もそれは中国だけの問題ではないのだろう。 

 

「参考文献」

 

価値観が2025年に変わるって、ホントか ~炉辺閑話 #35

 

 「この会社を救うのか、それとも、地球を救うのか」、と話すのはユーグレナ社の出雲充社長。そんなに遠くない未来に価値観の変化が起きるといいます。

世の中の変化は、常に我々が思っているより早く起こります。25年がターニングポイントになる。私は本気でそれを信じています。 (出所:日経スタイル)

ベンチャーこそSDGs実現へ、2025年が価値観転換期に ユーグレナ・出雲社長|NIKKEI STYLE

「今、社会に求められているのは、儲けを最優先するこれまでの「金融資本主義的価値観」から、「サステナビリティ」を重視する価値観への転換です」と出雲氏は指摘し、「そんなに簡単じゃないでしょと思うかもしれませんが、私は25年を境にその価値観の大転換が起きると信じています」といいます。

 その根拠は、2025年に、15~64歳の生産年齢人口の過半数を「ミレニアル世代」以降の人々が占めるようになるからといいます。ミレニアル世代とは2000年以降に成人した世代で、今の資本主義に限界を感じ、心の底からサステナブルを欲しているという特徴がありますと説明します。

 

 

 あまり「危機、危機」と言って危機を煽るつもりはありませんが、現実、「地球温暖化」、「パンデミック感染症の世界的大流行)」の問題が顕在化し、人類の生命が危機にさらされています。人類が今すぐに滅亡する訳でもないのでしょうから、そんなに切迫感はないのかもしれませんが、自分の生活のすぐ横に、そうしたものがあると思えば、心穏やかでいることはできません。

 今年8月、西日本を中心に記録的な大雨を、気象庁は、地球温暖化による「異常気象といえる」と指摘したそうです。

今後も同じような「異常気象」は起こりえると指摘したうえで、地球温暖化の影響で水蒸気量が着実に増え、これまでにない雨量が各地で観測される可能性が以前よりもはるかに上がってきている (出所:NHK

 出雲氏が指摘するように、もっと「サステナビリティ」に近づいていくべきなのかもしれません。そのために社会のしくみや経済構造に変えていかなければならないのでしょう。

 今となりにある危機からすれば、手っ取り早いのは、脱化石燃料であったり、公衆衛生の再構築であったりするのでしょうか。

 

 

君子は義に喩(さと)り、小人は利に喩る

 論語「里仁第四」16 にある言葉で、「君子 教養人は道理を理解し、小人 知識人は損得を理解する」との意味です。

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「大手企業がSDGs推進に真正面から取り組むのは困難」と出雲氏は指摘、「でも、ベンチャー企業ならそれができると思います」といいます。守るべき既得権益もなく、組織が小さく機動的に動けるからとのその理由を明かします。

誰かを犠牲にして自分だけが幸せになることをよしとしない。短期的課題の解決ではなく、未来がずっと続いていくためにできることをする。(出所:日経スタイル)

 出雲氏は「義」を説いているのでしょうか。

 

 

 DeNAの会長で、経団連の副会長でもある南場智子氏が、その出雲氏を「この方はミドリムシジェット機を飛ばすんですから、すごいですね」と、話しています。

保守的なフランスが起業家大国に 日本に必要なのは「ヒーロー」だ:日経ビジネス電子版

着眼点も冴えてますが、泥臭い汗もかきます。

米国のASTMという規格に合格しないと日本でもジェット燃料として認められないのですが、審査をしてもらうところまでたどり着くのに数年がかりの粘り腰の交渉をし、晴れてASTMの認める6番目のジェットエンジン製造法であるとのお墨付きを得たわけです。 (出所:日経ビジネス

 その南場氏は、経団連の副会長となって、しきりに、「スタートアップがどんどん生まれて育つエコシステムを発展させることは日本経済にとって急務」と言います。

 出雲氏の事例からしても、そうなのでしょうけれど、社会のしくみを変えていくには、既得権益に縛られることなく、機動的に動けるベンチャーが増えていけばいいのかもしれません。

論語の教え

「速やかならんと欲する無かれ。小利を見ること無かれ。速やかならんと欲すれば則(すなわ)ち達せず。小利を見れば、則ち大事成らず」、とは 論語子路第十三」17の言葉です。

「成果を急がないことだ、目先の小利を求めないことだ。速く成果をと思うと、到達しない。小利に目がくらむと、大きな仕事が完成しない」との意味です。

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 DeNAを一から立ち上げた南場氏。自身の経験からなのでしょうか、「社会のためにはなるが、個人のためにならないことなら私もこんなに力んで人に起業を勧めたりしません」といいます。

 

AI活用のためには倫理、大手IT企業で倫理委員会の設置相次ぐ ~炉辺閑話 #34

 

 米IT大手、AI新技術の活用にブレーキ、倫理的問題に直面とロイターはいう。何気なくチャットボットや写真のタグ付け機能に導入されたAIであったが、AIの欠点が指摘されるようになり、大手IT各社は倫理委員会を設立しようになり、サービスの内容によってはAIの導入を断るケースも出てきたという。

 焦点:米IT大手、AI新技術の活用にブレーキ 倫理的問題に直面 | ロイター

技術は人種や性別にまつわる差別を永続化させかねず、倫理的に危うすぎる。

AIシステムは過去のデータやパターンから学ぶ必要があるため、有色人種その他、社会の主流から取り残された人々への差別的慣行を繰り返すリスクがある (出所:ロイター)

 道理や常識でもAIを活用することができれば、争いや訴訟に発展していくようなことも減るのかもしれないが、同じ理由で、まだ時期尚早、実現することは難しいのだろうか。 

 

 

人気ゲーム「フォートナイト」を開発したエピックが、アップルのアプリ内課金制度が反トラスト法(独占禁止法)に違反するとしてアップルを訴えた裁判で判決があった。

 連邦地裁は、アップルに対し、外部課金への誘導を認めるよう命じた一方で、最大30%のアプリ内課金を引き続き認めたという。

 アップルは判決を歓迎するコメントを発表し、エピックのCEOは不満をツイートし、控訴の可能性を匂わした。

アングル:アップル判決、グーグルに有利か 課金ルール見直し | ロイター

 ロイターによれば、裁判を担当した連邦地裁のゴンザレス・ロジャース判事は、流通に規制を設けることでユーザーはウイルスなどを懸念せずアプリを購入できると指摘したという。

「アプリを審査して詐欺や不快なコンテンツ、著作権を侵害するものを排除するとともに、個人情報の取り扱いに厳しい基準を設け、『広い』意味で安全性が向上する」とした。 (出所:ロイター)

 さらに判決文は、アップルが得る手数料が「桁違いの利益」をもたらしているが、制限緩和をアップルに強要すればアプリ開発業者にプラットフォームを提供しても収益を得られなく恐れがあると指摘したという。高度な安全性と集中管理という、アップルが主張する利点が損なわれる恐れがあるとしたそうだ。

 

 

論語の教え

「富 求む可(べ)くんば、執鞭(しつべん)の士と雖(いえど)も、吾も亦(また)之を為さん。如(も)し求む可からずんば、吾が好む所に従わん」と、論語「述而第七」11 にある。

「まっとうな生き方によって得られるならば、どんな賤しい仕事についても金儲けせよ。しかし、まっとうではない手段をとるくらいなら、むしろ貧賤でいなさい」と、渋沢栄一は解す。

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 一方、加地は「儲かることができるものならば、通行者の整理のような仕事であろうと、私はそれをしよう。しかし、それによって特段儲かるような仕事でないのならば、貧乏を覚悟で自分の好きな道に没頭して暮らしたい」との意味とする。 

 

 

 今回、エピックとアップルの裁判で、判事は「成功は違法ではない(Success is not illegal)」と指摘、独禁法違反ではないと判断したという。

 アップルがApp Storeを作ったことで、人々は安心してアプリをダウンロードできるようになり、利用できるアプリの数と種類が増えた。ただ開発者にとっては、その市場はハードルが高く制限も多く、まるでアップルのために働くように高額な手数料が持っていかれてします。

 孔子の言葉からすれば、アップルは合理的なことをやっているのだろう。ただ、まっとなこととはいえ、少し金儲けするほうに寄り過ぎているのかもしれない。

人はときに判官びいきで、偏った判断になったりすることがある。そんなときにAIの活用もあるかと思うが、まだその活用も危うそうだ。

 その活用のために、倫理委員会の設置が必要というのだから。

 まだまだ自ら道理や道徳を学び、実践していくしかないのだろう。

 

9.11 あの惨劇から20年、なくならない暴力【善人 邦を為むること百年ならば.....】~炉辺閑話 #33

 

 9.11 米国でおきた同時多発テロ事件から20年の歳月が流れた。米ニューヨークのワールドトレードセンターの跡地「グラウンド・ゼロ」などで、追悼式典が行われ、深い悲しみに包まれた。攻撃のあった時間に計6回の黙祷が行われ、3000人近い犠牲者の名前が読み上げられたという。

9/11から20周年の追悼式典、ニューヨークなどで6回の黙とう - BBCニュース

9.11当時の大統領だったブッシュ氏が、ペンシルヴェニア州の追悼式典で、「20年前の攻撃後にアメリカ国民がいかに一致団結したかを思うと、最近の国内の激しい分断や対立は隔世の感がある」と述べ、「イスラムアメリカ人やアウトサイダー、移民や難民を温かく受け入れる国、それが私の知っているアメリカだ」と強調したという。

 

 

ブッシュ氏はさらに、「この国への危険は国境を越えてだけでなく、国内で高まる暴力もその原因になり得ると、証拠が増え続けている。

国外の暴力的な過激派と国内の暴力的な過激派の間に、文化的な重複はほとんどないが、多元的な共存を見下し、人命を軽視し、国家的な象徴をなんとしても損なうのだというその断固たる姿勢から、その者たちは同じおぞましい精神の産物だ。その者たちに「対峙」することが、私たちに引き続き課せられた責務です」と述べた。 (出所:BBC

論語の教え

「善人 邦を為(おさ)むること百年ならば、亦(また)以て残(ざん)に勝ちて殺を去る可し、と。誠なるかな、是(こ)の言」と、論語子路第十三」11 にある。

「善人が為政者となって百年もの時があれば、残忍な連中も感化し、死刑も不要となる」と訳される。

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「善人」とは、「聖人」と違い、自分が生まれたときからの人柄のままに進み、世にあって人として間違いは冒さない人だという。そうした人がいたとしても、100年の時間をかけなければ、平穏は訪れないということなのだろうか。

 「対峙」、暴力なき対峙は可能であろうか。徳をもって、それを感化することはできるのだろうか。

 

 

 9.11から20年という時間が経過しても、結局、何も変わっていないといわれる。誰かが手を挙げれば、そこから暴力の連鎖が始まる。

 春秋戦国時代に生きた孔子も時に戦いを選択したといわれる。道理に従ったとしても、人はどこかで過ちを犯してしまうということなのだろうか。少しばかり道徳の限界を感じるが、もしかしたら、そうした自らの経験があったからこそ、道徳に至ったのかもしれない。道徳は学び、実践しなければ身につかないということなのだろう。

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 孔子が道徳、道理を説いてから2500年以上の時が経過する。この間、どれだけ平穏のときがあったのだろうか。善人がきわめて少ないということなのかもしれないし、善に近づこうとする人も少ないということなのかもしれない。

 戦いの終結を選択したバイデン大統領は、善人なのだろうか。それとも善人になろうとしているのだろうか。暴力はない方がいい。

 

【不安と経済】中庸を求める候補者、その中庸とは ~炉辺閑話 #32

 

 また一人、自民党の総裁選に立候補を表明した。その人は、物価目標2%について、「インフレ率というのは経済成長の結果からくるもの」とし、「こういう状況の中で達成できるかというと、そこはかなり厳しいものがあるのではないか」と、述べたという。現実的な見方をしているのではなかろうか。

河野行革相が総裁選出馬表明、2%目標達成「かなり厳しい」 - Bloomberg

 河野太郎氏が立候補を表明した。会見の冒頭、「皆さんの思いや不安を受けとめ、情報を共有し、しっかりとしたメッセージを出し、皆さんと一緒に直面する危機を乗り越えていかなければならない」、「人が人に寄り添うぬくもりのある社会を作っていきたい」と述べた。

 

 

今、日本は新型コロナウイルス感染症と気候変動という大きな危機に直面しています。

私たちは、国民の想いや不安を受けとめ、情報を共有し、しっかりとメッセージを発信しながら、みんなでこの直面する危機を乗り越えて、日本を前に進めなければなりません。(引用:河野太郎公式ページ

 今、目の前にある危機を直視し、そこから抜け出るための現実的な方法を採用する、それが今求められているのだろう。

 従来のまま経済だけに頭が染まっていたら、空虚な理想論しか生まれない。現実社会は、連続した毎日の中にある。物価目標2%も設定したときには必要なことだったのだろうが、8年もの時間が経過すれば、当然見直されるべきなのだろう。

廏 焚けたり。子 朝より退く。曰わく、人を傷つけたるか

「廏(うまや)焚(や)けたり。子 朝(ちょう)より退く。曰わく、人を傷つけたるか、と。馬を問わざりき」と、論語「郷党第十」11 にある。

孔子が政庁より帰ってきたとき、厩舎が焼けていた。すると孔子はそこにいる馬のことは聞かず、「だれか怪我はしなかったか」と尋ねた」という。

 馬がどうでもいいというわけではないが、人間と動物の間に一線を画し、まず人間を尊重する孔子の考えのあらわれと解釈される。

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 経済も人によって営まれる。人とその暮らしがあって経済は成立する。まず、人の心が優先されて然るべきではなかろうか。

 

 

中庸

「度量の広い、中庸な、そして温かいものが保守主義だ」と河野氏は主張し、「平等な機会が提供され、努力した者、汗をかいた者が報われる社会、勝者が称えられ、敗者には再び挑戦する機会が与えられ、そして平等に競争に参加できない者をしっかりと支える国家を目指す」という。

 経済ばかを優先し、そこから危機が生まれ、社会に歪が生じたなら、それを正していくことも必要ということなのだろうか。

中庸の徳為る、其れ至れるかな。民 鮮(すく)なきこと久し

河野氏が指摘した「中庸」を、孔子は、「雍也第六」29 で触れている。

「道徳における中庸の位置は、この上ないものだ。しかし、人々は中庸を欠いて久しい」という。

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「中」とは、偏らず、過ぎたると及ばざるとのないこと。

「庸」は、平常、あたりまえで変わらないこと。

 社会において突出するような行為をきらって、庸徳庸行を尊ぶ。

 この「中庸の徳」は、東洋、西洋の区別なく倫理学の主要な概念の一つと言われる。アリストテレス倫理学でも、徳の中心におかれ、「過大」と「過小」の両極端を悪徳とする。徳は正しい中間(中庸)を発見してこれを選ぶことにあるという。

 

 

寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち民任じ

孔子は、「寛(かん)なれば則(すなわ)ち衆を得、信なれば則ち民任じ。敏なれば則ち功有り、公なれば則ち説(よろこ)ぶ」と、「堯曰第二十」1 でいう。

 殷王朝の最後の王 暴君「紂」を倒した周国の武王の政治を述懐し、その後、民の心は周王朝に向かったといい、「統治が寛大であれば、人々の支持を得、言行一致であれば、人々は信頼し、処理が敏速であれば実績が上り、公平であれば、喜ぶのである」という。

 それまでの悪習を断ち切れば、新たなものも生まれ、それが適正であれば、不安が解消されていくということなのかもしれない。

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 経済指標が芳しくないといっては、景気刺激策を打って多量な資金を市場に流し込む。一時的な数値の改善はあっても、安定的な改善につながらず、またどんどん資金を投ずる。しかし、一向に必要なところにお金は回らずに、どこかに滞り、みるみるうちに国の借金ばかりふくれ上がる。だが、その負担だけは公平さが求められる。これを悪循環と呼ばずして何を悪循環と呼ぶのだろうか。不安の根源がここにあるのかもしれない。

 その悪循環を断ち切る勇気が求められている。しかし、誰も挑戦しようとせず、相も変わらずに経済、経済と繰り返す。経済を目的、目標にせず、手段にすべきときなのだろう。

 こうした陥りやすい過ちがあるから、孔子アリストテレスが「中庸」を説くのかもしれない。経済指標ばかりに囚われ、その高低を論ずるのではなく、もう少し人に寄り添ってもいいのかもしれない。

  あと1週間もすれば正式に告示となり、本格的な論戦も始まるのだろう。そうすれば、候補者各々の主張ももう少しはっきりしてくる。

 今ある危機に、様々なに危機が加わり、不安が不安を助長する。不安に強がりばかりで対処するのではなく、もう少し包摂的に寛(ひろ)い心もあっていいのではなかろうか。