「論語を現代に活かす」 時代を超えて読まれた名著

未来はすべて次なる世代のためにある

【何如ぞ其れ知ならん】 Vol.112

 

子曰わく、臧文仲(ぞうぶんちゅう)蔡(さい)を居(お)き、節を山にし梲(せつ)を藻(もか)きす、何如ぞ其れ知(ち)ならん。(「公冶長第五」18)

  

(解説)

孔子が批判された。臧文仲は蔡亀(さいき)を備え、節は山の形に彫り、梲には藻の形を描いた。どうして彼を分別ある人と言えようか。」論語 加地伸行

   

 「臧文仲」、魯国の大夫で実力者のひとり。

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  
 

【善く人と交わる。久しくしてもこれを敬す】 Vol.111 ~一期一会の意味を知る

 

子曰わく、晏平仲(あんへいちゅう)善く人と交わる。久しくしてもこれを敬す。(「公冶長第五」17)

  

(解説)

孔子の教え。晏平仲は人間関係を保つことが巧みであった。長いつきあいとなっても、相手は晏平仲に対して敬意を失わなかった。」論語 加地伸行

 

 皇侃(おうがん)は最終句を「久而人敬之」とし、他では「久而敬之」で人がないと桑原は指摘する。

 「人」を含まずに読めば、晏平仲は人との交際が立派だった。交際が長くなっても馴れっこにならず。相手に敬意を持ち続けたとなるという。「人」を含めて読むと、「之」の意味が逆転することになり、「之」は晏平仲を指すことになるという。

  その上で、桑原はこう解説する。「善く人と交わる」の善くとはどういうことか。まさか上手に、つまり利益のありそうな人とだけきれいに交際するという意味ではあるまいという。「私は日本語の「よく」の感じで、好んでと解したい」と桑原はいう。

 

 

「あけっぴろげで、こだわりなく誰とでもつきあう。相手は、晏先生は気軽なお方だ、などと軽く考えて交際を続けるうちに、彼には叡智と毅然としたところがあることをしだいに発見して、立派なお方だ、ああいう方につき合っていただいているのはありがたいことだ、と思うようになってしまう。いかにも天成の政治家だ」と、孔子がいったのであろう、と桑原は解説する。

 

「晏平仲」、名は嬰(えい)斉の宰相。賢人政治家といわれる。質素を旨とし、常に国家を第一、上を恐れず諫言を行い、人民に絶大な人気があり、君主もまた彼を憚ったという。 

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 今、この時代にあって「善く人と交わる。久しくしてもこれを敬す」の語義を考えてみると、「善く」という言葉が重く圧し掛かってくる。

 SNSの交流においても、「善」を逸脱したような言葉が散見される。

「善」の反対語は「悪」、「愚」というイメージもつき纏う。

善く人と交わる。久しくしてもこれを敬す

 SNSにおけるマナーなのだろう。マナー・規範が身につけば礼に近づく。礼とは規範であり、その「礼」を理解できれば、一期一会の意味を知る。

 「礼儀」、慈悲と謙遜という動機から生まれ、他人の感情に対する優しい気持ちによってものごとを行なう。礼の必要条件は、泣いている人とともに泣き、喜びにある人とともに喜ぶことであると岬龍一郎はいう。

 茶道ではこの礼を重んじる。「一期一会」もその茶道の精神から生まれたといわれる。

「一期一会」、あの井伊直弼が、千利休の弟子山上宗二の「一期に一度の会」を直して生まれた。めぐり逢う機会が一生に一度であると覚悟して、誠を尽くすことで、その緊張と真剣さを期待した言葉で、そこから転じて、出会いを大切にしろとの意味になったという(参考:日本人の品格 岬龍一郎)。

  

善く人と交わる。久しくしてもこれを敬す

 SNSの交流においても、礼を基本として、「敬」が求めるべきなのだろう。

「敬」とは、物事を注意深く行う。おろそかにしない。他人を尊んで自分の挙動をつつしむ。うやまいとうとぶ。うやうやしくするなどの意味がある。

 思いやりに通ずるのだろうか。

 人を攻撃したりすることは愚かしい行為なのかもしれない。それが繰り返されるようであれば、それは「悪」ということなのだろう。  

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

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論語 (ちくま文庫)

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【その民を養うや、恵。其の民を使うや、義】 Vol.110

 

子 子産を謂う。君子の道四有り。其の己を行なうや、恭。その上に事(つか)うるや、敬。その民を養うや、恵。其の民を使うや、義、と。(「公冶長第五」16)

  

(解説)

孔子が子産について論じられた。彼の人は教養人たる四特長を備えていた。言動においては、自分のような者でも(恭)という気持ち。主君に対しては、出すぎたことをしない(敬)態度。行政においては、人々の幸福第一。法の執行においては、厳正であった、と。」論語 加地伸行

  

「子産」、氏は公孫、名は僑、字名が子産。鄭の国の貴族で宰相を務めという。孔子より一世代前の合理主義的政治家であったという。

  子産を高く評価していた孔子、他の政治家にもこうあって欲しいと、この章は解すべきと桑原は言う。

  

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

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論語 (ちくま文庫)

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  • 作者:桑原 武夫
  • 発売日: 1985/12/01
  • メディア: 文庫
 

 

【敏にして学を好み、下問を恥じず】 Vol.109

 

子貢 問いて曰わく、孔文子何を以て之を文と謂うか、と。子曰わく、敏にして学を好み、下問(かもん)を恥じず。是を以て之を文と謂う、と。(「公冶長第五」15)

  

(解説)

「子貢が疑問を呈した。「あの孔文子が、どうして文という諡(おくりな)を得たのでしょうか」と。孔子はこう説明された。「孔文子は明敏であり学問を好み、後輩や目下の者に教えを乞うことを恥じなかった。そういうわけで、諡号(しごう)に文が贈られたのである」と。」論語 加地伸行

 

「孔文子」、衛国の大夫。姓は孔、名は圉、字名が叔圉。諡に「文」とつくという。

 諡法に依れば、「文」とは「学に勤め問うを好む」と人柄を表すという。

だがこの「孔文子」孔圉はあまり評判がよくなかったようだ。大叔疾(たいしゅくしつ)の妻を離婚させて自分の娘の孔姞(こうけつ)と結婚させたという。ところが、疾は前妻の妹を囲い、二人の妻を持つ状態になったので、孔圉は怒って疾を攻めようとしたが、孔子にとめられた。疾は恐れて国外に逃亡した。すると、孔圉は娘の孔姞を、なんと疾の弟の遺(い)に再婚させたという。弟が嫂と結婚するのは家族道徳上許されないことであった。

  

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

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【未だ之を行なうこと能わずんば、唯聞くこと有るを恐る】 Vol.108

 

子路 聞くこと有りて、未だ之を行なうこと能(あた)わずんば、唯聞くこと有るを恐る。(「公冶長第五」14)

  

(解説)

子路は、何かを学んで、それをまだ身につけことができないうちは、他に学ぶことが出てくることを恐れた。」論語 加地伸行

 

 桑原はもう少し詳しく解説する。「子路は真直ぐな人間で、知行合一を常に求めた。先生から教わったことはすぐに実行に移したい。しかし、まだそれが成果をあげていないうちに、また次の教えを聞くと、それも実行したくなり、あぶ蜂とらずになる恐れがある。だから、一つのことを成就するまで次の教えを聞くのが恐ろしい、といった。もちろん、それは子路本人が「恐ろしい」といったのか、他の門人がこれを見ていて、子路は恐れているといったのかわからないが、いずれにしても「恐」という強い言葉によって、子路の学問への純真な気持ちを的確に表している。こういう言葉によって、子路は後生の読者の人気を博しているのだ。」

 

  

 「子路」、姓が仲、名は由、子路は字名。顔回(顔淵)とともに「論語」の二大脇役。大国の軍政のきりもりを任せられる人材と桑原はいう。子路は晩年、衛の国に仕えるが、内乱に巻き込まれ殺される。

 

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「関連文書」

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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

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論語 (ちくま文庫)

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【性と天道とを言うは、得て聞く可からざるなり】 Vol.107

 

子貢曰わく、夫子(ふうし)の文章は、得て聞く可(べ)し。夫子の性と天道とを言うは、得て聞く可(べ)からざるなり。(「公冶長第五」13)

  

(解説)

「子貢の回想。孔子から古典学は学ぶことができた。しかし、本質・実態とか普遍的なるものは学ぶことができなかった。」論語 加地伸行

 

「性」については、論語の中で、「性は相近く、習は相遠し」(「陽貨第十七」2)と一回いっただけであり、また、「天道」という言葉はどこにもなく、ただ「天何をか言うや、四時行われ、百物生ず。天何をかいうや。」といったのみである。

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 自分は天命を受けた以上、暴力によって滅びるものではない、という自信は堅持していたけれども、天道は是か非か、について確定的な答えを出していないと 桑原は解説する。 

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(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

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論語 (ちくま文庫)

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ブラック企業大賞とハラスメント【我れ人の我れを加ぐことを欲せず】 Vol.106

 

子貢曰わく、我 人の諸(これ)を我に加うるを欲せざるや、吾も亦(また)諸を人に加うること無からんと欲す、と。子曰わく、賜(し)や、爾(なんじ)の及ぶ所非(あら)ざるなりと。(「公冶長第五」12)

  

(解説)

「子貢が孔子に申し上げた。「私としましては、他人が良くないことを私に押しつけてくるのを望みませんので、同じく私も良くないことを他人に加えることはすまいと思っております」と。孔子はこうおっしゃってられた。「賜君よ、お前にはそれはまだまだというところだな」と。」論語 加地伸行

 

  桑原はこの章を古注で読むことを勧める。

「加は陵(しのぐ)也」という馬融の古注に従う。陵とは上に出ること、したがって対象の人間になんらかの圧力を加え、おかすという意味である。

 秀才の子貢が、他人が自分の上に出て自分にいささかでも圧をくわえるようなことを容赦できない同様に自分も他人の上に出て、これを抑えるようなことのないように努力したい、きわめて筋の通った利発な考えを述べたのに対して、孔子が、賜よ、それはお前にはできそうもないことだな、とどうやら理屈ばかりが先走りして、実行がおろそかになりやすいこの秀才を軽くたしたしなめたのである。」

 朱子の新注では、子貢のいった二句を論理的に結び付け、加地のように読む。「このほうが社会倫理的になり、論理は整うように見える。しかし、古代人はいつも論理的に連関性をもって発想していたわけではなく、むしろ個々直覚的に、だから、などといってつながらずに、語ったのではなかろうか」と桑原は解説する。

 

 確かに桑原の読みの方が、ハラスメントが増える現代にもわかりやすい訳になるような気がする。 

 ブラック企業大賞2019の発表があり、三菱電機(メルコセミコンダクタエンジニアリング)が大賞に選ばれ、「ウェブ投票賞」は、ネット大手の楽天が選ばれた。楽天は、男性社員が会議中に上司から暴行を受けて、労災認定される事件が発生していたと弁護士ドットコムニュースが伝えた。

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「我れ人の我れを加(しの)ぐことを欲せず。吾れも亦人を加ぐこと無からんと欲す」

 孔子は秀才である子貢にはできそうもないとたしなめたという。

 実践することは難しいことなのかもしれないが、会社生活に活かすことができればいいのかもしれない。そんな努力から、他人に圧を加えるようなことを避ける習慣を身についていきたい。

 

(参考文献)  

論語 増補版 (講談社学術文庫)

論語 増補版 (講談社学術文庫)

  
論語 (ちくま文庫)

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